養老渓谷から粟又の滝
私たち四人は最後になった。
折角来たので、「粟又の滝まで行きましょう」と声をけられたので、
私は一緒に連れて行ってもらうことにした。
K子さんの車に乗り行くことになった。
昔の仲良し仲間です。
車は本道へ出て、坂を上って行った。
昔、J子さん、H子さんたち、一Bの皆さんとは、
渓谷の駅から歩いた道だと思う。
いま車が上っているが、この坂がこんなに急であったことは、記憶から消えていた。
ずいぶん車は走り続けた。
左側に建物が見えてきた。
「あそこらしい」車が店に近づくと見覚えのある景色が見えてきた。
ここには店などの建物はなく、左側に少し広がった空き地があった。
ここには店などの建物はなく、左側に少し広がった空き地があった。
この空き地に数台の車しか止められなかったような覚えがある。
川と崖に囲まれた狭い空き地に売店が出来、崖の上には旅館と駐車場が出来ている。
「よく造ったものだ」と感心させられた。
車を駐車場に置き、日陰の坂を下りてきた。
ここを歩くときは寒かった。
道に出ると、粟又の滝への降り口は、直ぐに見つかった。
道を左に折れると、細い急坂が続いていた。
「あれ、こんなにきれいな道だったかな」
そう疑問を抱きながら降りて行った。
すると、右側に民家があった。
「ええ、家がある」
「不便でないかな」
そう思いながら進むと、川へ降りる階段があった。
急な階段を下りると、日陰が大変寒かった。
左の岩肌は霜や氷で覆われて見えた。
薄日の反射光がキラッと光っていた。
川に出ると、まぶしい太陽の日が谷間にそそいでいた。
滝を見上げると、眩しい太陽の光が水ではね返っていて、
黒ずんだ岩肌を流れる水は、糸を引いたように見えた。
滝に落ちた水は小さな流れとなって、足下を流れていく。
滝をバックに写真を撮ろうとすると、見事な逆行になった。
仕方なく、ごくわずか角度をずらして撮影した。
工夫の甲斐あってか、よく撮れた。
撮影後、数分だったが、昔を思い出しながら辺りを散策した。
置き石を渡り、来た道を戻り始めたとき、
右側に赤く塗られた細い階段を見つけた。
「あっ、あの時の階段だ」
確かに見覚えのあった階段であった。
昔、あの階段を下りてきた。
鮮明に覚えている。
最初に降りてきた道は、やはり昔の道ではなかった。
旅館ができ、新しく新設されたものだということが理解出来た。
わずかな時間だったが、昔に返ったような楽しい時間を過ごすことが出来た。
「ありがとう」
私は心の中で一緒にこの時間を付き合ってくれた生徒に感謝していた。
私たちは車に乗り旅館へ帰った。
ここで、みんなとは名残惜しかったが別れることになった。
H子さんはそのままT子さんの車に乗って行った。
S子さんは自分の車に乗って帰って行った。
私はJ子さんの来るまで五井まで送ってもらうことにした。
私を乗せた車は坂を上って行った。
前を見ると赤い車が走っていた。
J子さんが「Sちゃんの車だ」と言った。
S子さんは気付いただろうか。
車は昨日来た道とは違う道を走っている。
J子さんは
「Sちゃんは道を知っている」
「後を着いて行けば大丈夫」
と言ってS子さんの後に着いて行った。
私たちは途中でS子さんの車に別れ、養老渓谷駅へ向かった。
私はここの駅を写真に納めておきたかった。
J子さんにそのことを話し、車を養老渓谷駅へ向けてもらった。
崖に囲まれた道を登り切ると家並みが見えてきた。
もうここは、養老渓谷駅の近くだ。
左折をしたら、養老渓谷駅の姿が現れてきた。
昔見たときは、きらびやかに見えたが、今日はかっての姿ではなかった。
いや、私の記憶違いかも知れない。
でも、面影は一致しているようだ。
今日はここに、私とJ子さんの二人しかいない。
私の記憶にある老渓谷駅には沢山の生徒がいる。
今見ている駅の姿は錯覚だった。
懐かしいと思う気持ちが、この錯覚をつくり出したのだろう。
ここで駅の写真を撮り、五井へ向かった。
車が今までよりも幾分速くなったような気がする。
加茂の風景が足早に通り過ぎていく。
徳氏、飯給、大戸、里見駅はアッという間に通り過ぎてしまった。
気が付いたときは、牛久へ来ていた。
車はどんどん五井駅に近づいていく。
光風台の駅が右に見えてきて、直ぐに去って行った。
左前方に閑静な住宅地の家並みが見えている。
山を切り開き、住宅地にしたことが想像できる。
最後の広い直線道路に出た。
もうすぐ五井駅に到着する。
楽しく懐かしかった思いが次から次へと横切っていく。
「また会えるだろうか」
そんな不安も横切った。
住宅街を抜け、五井駅が見えてきた。
あと数分でお世話になったJ子さんともお別れになる。
本当に二日間ありがとうございました。
車は五井駅に着いた。
十一時二六分発東京行きの電車がホームに入ってきた。
私はこの電車に乗って横浜へ帰る。
外の景色を見ながら、楽しみにしていて、
過ぎ去ってしまった二日間の出来事を思い出しながら横浜へ近づいて行った。